第17号
平成14年6月11日

衆議院総務委員会における参考人意見陳述
 
  ヤマト運輸株式会社(東京都・社長 有富 慶二)は、6月11日に開催された衆議院総務委員会の「日本郵政公社法案、日本郵政公社法施行法案、民間事業者による信書の送達に関する法律案及び民間事業者による信書の送達に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」の審査のため、参考人として出席しましたので、有富社長の意見陳述内容の要旨についてお知らせします。
 

  当社は、宅急便という商標で展開している宅配便事業を主たる事業とする会社です。
 
  宅急便は、1976年(昭和51年)1月、一般の消費者が日常生活において荷物を送りたいと思ったとき、いつでもどこでも簡便に利用できるサービスとして営業を開始しました。
 
  当時、一般の消費者が日常生活において荷物を送るには、旧国鉄の小荷物扱いか郵便小包を利用するしか手段はありませんでした。
 
  どちらのサービスも、独占的に国が提供していたサービスであり、お客様にとっては使い勝手が必ずしも良いとは言えないものでした。
 
  当社は、宅急便を商品設計するに当たり、お客様の要望を満たすことを最優先課題としてきました。その結果、取扱い個数は飛躍的に増加し、営業開始5年目には、初年度の4倍近い個数を取扱うことになりました。
 
  また、当初は関東一円だけでサービスを提供していましたが、お客様からの要望が高まり、全国にネットワークを広げていくことにしました。「どこからでも、どこへでも手軽に運べる」というネットワークがサービス業の強みだと考えたからです。
 
  1997年(平成9年)11月、小笠原諸島をエリア化し、念願であった全国ネットワークを完成させました。この間、費やした歳月は、実に21年余にのぼります。この期間の大半は、古い慣行や行政の壁との戦いでした。
 
  例えば、お客様がリーズナブルな料金で宅急便を利用できるよう、当時主流であった路線運賃とは別建ての運賃を申請しましたが、一年以上放置されたことがありました。
 
  また、全国にネットワークを広げるべく、各地で路線免許の申請をしましたが、四年以上、棚ざらしにされたこともありました。
 
  こうした歴史をふりかえってみて、皆さんにぜひご理解いただきたい点は、公正で自由な競争環境で、さまざまな企業が切磋琢磨することにより、新しい市場が形成され、現在に至るまで拡大を続けているということです。
 
  これまでの経験から、当社は、古い慣行や行政の壁にとらわれず、お客様の要望を満たすことを第一に考え、智恵と工夫をこらしつつ、ライバルとサービス競争を展開していけば、自社の利益が増大することはもちろんのこと、市場全体も拡大し、お客様の利便性は飛躍的に向上するということを学びました。
 
  すなわち、独占環境にあっては、サービス提供者が自発的にサービスの高度化をはかることは難しく、市場全体も停滞し、お客様は乏しい選択肢の中から選ぶしかなく、利便性はなかなか向上しないのです。競争環境にあれば、多数のサービス提供者が智恵と工夫をこらしてサービス競争を展開することで、市場全体も拡大し、お客様は多様な選択肢の中から使いたいものを選ぶことができ、結果として利便性は向上することになります。
 
  当社は、あくまで後者の立場にたち、「競争型サービス業」を志向しています。
 
  さて、こうした観点から、今回提出された四法案を見ると、これまで法律上に明文化されていなかった「信書」について、概念を拡大解釈したうえで、法的根拠を与えようとしている点が上げられます。
 
  「民間事業者による信書の送達に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」の第3条では、郵便法第5条第2項の一部を改正し、「信書」を「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として、明文化しようとしています。
 
  また、「民間事業者による信書の送達に関する法律案」、いわゆる「信書便法案」の第2条第7項には、「長さ、幅及び厚さの合計が九十センチメートルを超え、又は重量が四キログラムを超える信書便物」という表現があります。
 
  これまでは常識的な判断に基づいて、「信書」に該当するのは、はがきや手紙の類だろうと考えていましたが、この法律が施行されると、大きさや重量と無関係にありとあらゆるものが「信書」に該当することになってしまいます。
 
  これでは、競争環境のもとで、多数の企業がサービス競争を展開している、宅配便やメール便の市場で、現在運んでいるものが運べなくなってしまいます。
 
  総務省の見解は、「信書便法案」における一般信書便事業者として許可を受ければ、現在宅配便やメール便として運んでいるものを今後も運ぶことができるということですが、一般信書便事業者として許可を受けるには、かなりハードルが高い条件をクリアしなければならないのです。
 
  その条件とは、「信書便法案」第9条第2項によれば、「全国の区域において一般信書便役務に係る信書便物を引き受け、かつ、配達」することであり、「総務省令で定める基準に適合する信書便差出箱の設置その他」の措置を講じることとされています。
 
  この条件は、宅配便事業者として最もきめこまかいネットワークを全国に整備していると自負している当社ですら、クリアするにはかなりの負担を覚悟しなければならないものです。
 
  これでは、「信書便法案」が施行された場合、一般信書便事業者として許可を受け、事業を展開できる体力がある民間企業は当社を含め、数社にとどまることが予想され、国による独占環境が、国と数社の民間企業による寡占環境へと変化するにとどまることを意味しています。
 
  しかも、許可する主体は総務省であり、ライバルである郵政公社は総務省の現業部門です。これでは、審判員とプレイヤーが一体化していると言わざるを得ず、そうした総務省に一挙手一投足を縛られていたのでは、公正な競争は望み得ないと思います。
 
  すなわち、「信書便法案」は、国による独占環境を維持しつつ、一部の民間企業を参入させ、国の事業と同じことをさせることで、市場の一部を分け与えようという意図のもとにつくられた「民間官業化法案」と言え、その他多くの企業にとっては、現在行っている事業を制限しかねない規制強化法案であると言わざるを得ないのです。
 
  そもそも、今回の郵政関連四法案が果たすべき使命のひとつは、規制緩和によって信書の集配業務への民間参入を促進し、公正かつ自由な競争により、その結果、国民の利便性を向上させるという、小泉総理大臣の崇高な理念を実現することであったはずです。
 
  しかし、四法案のうち、とりわけ「信書便法案」およびその関連法案は、これまで述べてきた通り、そうした崇高な理念に逆行するものであったばかりでなく、宅急便開始以来社員一丸となって、絶えずお客様の要望を満たすことを最優先課題として、事業を展開してきた当社にとっても、経営理念とは相容れないものであったため、当社は同法案の許可事業者となることを断念することにしました。
 
  今後は、真の意味で規制緩和の理念が達成されるまで、お客様の要望を満たすことを最優先課題として、既存のクロネコメール便の更なる事業拡大を図り、お客様の利便性向上に努めていきます。
 
以上


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